ボサノバを歌い始めて数年経った頃です。
ある時、友人のライブで一曲の美しいSamba canção(サンバ カンサォン:ゆったりしたバラードのサンバ)が演奏されました。心の奥の方に語りかけてくるような優しさと哀愁のあるメロディーは、今まで聴いてきたボサノバとは全く違う世界で、まさに心の琴線が震えた瞬間でした。演奏が終わるや否や駆けつけて曲名を確かめたのを今でもはっきり覚えています。この時の曲が2nd album 「Vida」の3曲めに収録したカルトーラの代表曲の一つ「人生は風車(ふうしゃ)」でした。私がサンバ カンサォンを歌い始めるきっかけとなった出来事でした。
「人生は風車」は、愛する若い娘の旅立ちに父親が贈る言葉です。「人生の何たるかも、どこへ向かうのかも知らないお前。夢なんて風車小屋で轢かれる小麦のように粉々になってしまうよ。気づけば人生の崖っぷちに立っている。どうか気をつけてお行きなさい」という歌詞なのですが。あられもないほど、厳しすぎるよ、お父ちゃん・・・。
ですが、カルトーラの生きた黒人社会の厳しさや時代背景に想いを馳せ、カルトーラ自身の声で語りかけられると、なぜかその根底にある「父親の愛」がしみ込んできて泣けるのです。
カルトーラが自身の父のリクエストで歌う「人生は風車」の映像。カルトーラ自身の声で是非聴いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=L8U1Y9PBfig
2nd album 「Vida」の9曲目に収録したQue Seja Bem Feliz(君に幸あらんことを)は
出て行く娘に対し、「どうぞ君に幸あれと、自分はここに残りあなたのために毎日祈りを捧げましょう」と歌う祈りの曲です。「最後は僕の涙がどうか報われますように」と結ぶ歌詞が泣けます。私はこの曲が「人生は風車」と対になるアンサーソングではないかと思っています。